フーダニット・ハウダニット

「来ました、六人目です」
目の前の灰皿にはもみ消されたタバコが山を形成している。そこに一本追加された。
「……拘束はできないのか」
「できないのはわかってるじゃないですか。うちによる認定を受けてないのも含めると倍は行くでしょう」
「被害想定は?」
「可能性のあるのが53名。想定被害者は7名といったところでしょうか」
「全てに監視を……無理だな、被害者が範囲の外に広がるだけだ。会社と関係ある人間だけ保護をつけとけ」

犯罪は阻止できないが、加害者は突き止められ罪を問われる。しかし加害者より上の次元で犯行を意図した者がいるとしたら?ターゲットの殺害に至る雰囲気を醸成できるものがいたとしたら?そいつにとって加害者が誰は問題ではない。場合によっては被害者が誰かすら。誰かによる誰かの殺害さえ起こればいいのだ。それは新たなテロのスタイルだった。そいつはランダムに見える人の動きに、石を投げ、餌でつり、任意の場所に特定の人物を集めることに成功していた。
マップの上には光点が6つ。それらは特定の人物を示していた。

「後期クイーン効果か……」

世の中には因果律に影響を与える人間がいる。運が良い、悪いといわれる人々のことだ。そのバリエーションで周囲に一定の事象を引き起こす人間もいる。雨男、晴れ女などのことだ。殺人事件を引き起こす体質を持ったものを名探偵と呼ぶ。名探偵が遠因となる殺人事件に最初に着目したのは、自身も名探偵であったエラリークイーンだった。彼がカンパニーに近い位置にいたのは幸いだった。彼の参加によりこの部署が作られたのだ。
地図上の光点は名探偵たちである。重ねあわされた等高線は彼等による因果律の歪みを示している。そしてそこに強烈な歪みが加わった。
「『リトルボーイ』まで来ました!時間係数1w!連鎖係数5!大物です」
「その大人子供だけは超法規的措置で隔離しろ!今すぐだ!」

(2007-02-01ファ文)